手塚治虫『リボンの騎士』『双子の騎士』

男装の快傑リボンの騎士、はたまた亜麻色の髪の乙女、男女の姿を行き来するご存知サファイア姫の恋と冒険。
リボンの騎士』2バージョンと続編『双子の騎士』を手塚治虫文庫全集で読み比べてみた。

リボンの騎士1・2巻

    • 最初期はセクシーだったサファイア様の脚線美がだんだん棒みたいになっていくなーとか考えてしまうぐらいには王子タイツがエロいと思うんですよ。
    • ヘケートかわいい。女らしさの押し付けを嫌って普段着がパンツルックな魔女っ子。今見ても新鮮。
    • これが「なかよし版」と呼ばれており、先行する「少女クラブ版」のリメイクだと後書きで知る。少女クラブ版とはヘケートのデザインが違う。
    • 現在の連載漫画とは比較にならないハイペースで物語が展開するが、それでも連載引き伸ばしの問題は避けられなかった。ビーナス登場以降は蛇足感が強く、初期の単行本では割愛されていたらしい。
    • サファイアの出生の秘密に関わる人間が立て続けに死に、王位に戻る大団円が目の前だというのに、フランツにビーナスが横恋慕する話が始まり、舞台が王国から離れる。帰国できずに最終回を迎えてしまう……。
    • (エロゲのタイトルに使われるような)「姫騎士」という単語はいつから生まれたのか、と疑問を呈している人がいたのだけど、本作の英語タイトルが「PRINCESS KNIGHT」だという基本的なことに今更気づく。

リボンの騎士(少女クラブ版)

    • ディズニーアニメ調漫画表現の楽しさはなかよし版より上。喋る動物、ミュージカル、魔法で動物に変身するサファイアなど、なかよし版では整理されてしまった絵の楽しさが横溢。
    • 冒頭数ページがこちらで読めます。 http://t.co/W3BXqki 「粘土人形を作りながらの登場人物紹介」「ねじまき人形による前説」はなかよし版では踏襲していない。この場面、ディズニー映画か何かに元ネタがあるのかな?
    • ただしコマ割が単調な上、少ない尺にエピソードを盛り込みすぎでかなり読みづらい。メフィストフェレスは大いに話をかき回してくれたなあ。
    • なかよし版で改善された要素のひとつにヘケートのキャラ設定がある。元は単なる乱暴者、女の子の心を飲んでからはフランツ一筋という少女クラブ版は極端にすぎる。
    • ジェンダーの押し付けをスルリと躱そうとするなかよし版のヘケートは、作品の基本設定を相対化してしまうような興味深いキャラクターに仕上がっていた。

双子の騎士。

    • 海燕氏(Something Orange)による本作紹介記事。http://d.hatena.ne.jp/kaien/20090822/p2
    • 少女クラブ版リボンの騎士の続編。フランツとサファイアの間に生まれた双子が主人公。
    • 双子の片方が育ての親を殺してしまうのをはじめ、話のトーンがやや暗いけど個人的には好きだなあ。
    • 少女クラブ版と比べてエピソードが整理されて読みやすい。
    • 本来の人生を取り戻すため、他人の犠牲に助けられながらも戦う物語。テーマや終盤の展開に『旋風Z』と通じるものを感じるが、Zも作者には好かれてないのだったか(最近出たZの復刻版は未読です)。

余談

手塚治虫の「メタモルフォーゼ(変身描写)のエロス」は良く語られることだが。「リボンの騎士少女クラブ版」と「双子の騎士」には動物に変身する描写がかなりの頻度で出てきて、先生が相っ当ノリノリで描いてたことがうかがえる。小鹿のパピに人間の手足が生えた姿は『W3』のボッコ少佐を髣髴とさせる。
Twitterから抜粋、再編集)