北野勇作『かめくん』『ザリガニマン』

北野勇作『かめくん』再読。

木造アパートでスルメとリンゴを食み、眼鏡っ娘のいる図書館に通う、模造亀(レプリカメ)の日常。
セラミック製甲羅の中で記憶を冬眠させ、思考フレームの枠内で思索する。シナリオとシミュレーションが現実に逆流し、戦争の概念が揺らぐ、しかし穏やかな日常。
連想記憶部位が刺激されて、おかしな信号を出しているんだ!
ユーモラスな語り口に身を任せるうち、言葉遊びと連想法が読者を予想外の場所へ振り回す。「クレーン再立ち上げ」のくだりは特に謎めいていながら無意味っぽいところが、いい。げらっぷクレーン!

  • 「空想科学超日常小説」なる惹句を持つ本作を強引に「日常系」と接続する論者はいないものか。「日常」の揺らぎっぷりはあらゐけいいちの比ではない。
  • 路面電車が超空間ゲートを越えたりするあたりで、ウルトラQの最終回「あけてくれ!」に言及されているのに気付く。かめくんがガメラ2を見ていたのは記憶通りだったけど。

北野勇作『ザリガニマン』再読。

模造亀の敵ザリガニィが誕生する『かめくん』姉妹編。しかしタッチは大きく異なる。かめくんと同様夢と現実のあわいを体験したザリガニマンが、現実を否定して怒りの声を挙げるのはヒーローだから、なのか。
どろどろぐちゃぐちゃな生体機械の描写、謎のままにしてほしかった木星戦争にある程度の状況が提供されることなど、「姉妹編」としてはあまり好きになれない作品。
ただ記憶に対する愛惜や、書くことで現実に抵抗する主人公は両作に通底している。

  • 超後ろ向きなダークヒーローの誕生に何故か泣けてきたり。「いつでも後退、あとずさり。そうとも、それがこのおれだ。」

久しぶりに読み返して「思想とかプロットとかあらすじに落とし込めない部分」(http://p.tl/yzGK)の面白さが少し見えたと感じている。
しかし論じるには私の力が足りない。「クレーン」を面白く読ませるのは話芸のような語り口の力だとは思う。